紀元1世紀の教会を訪れる(13)
機織り職人の妻が話し始めた。
「ここに座ってアキラさんの話に耳を傾けながら考えていたのですが、神さまは私に何かを伝えるようにと願っておられるように感じました。まずはここにいるみ皆さんに、そして、ある特定の人のためにです。
神さまは、私たちが互いに分かち合うために、もっと多くのものを与えてくださること、そして、今経験しているものをさらに役立つものにしてくださることを、私たちに知ってほしいと願っておられるように思います。
それは、私たちが自分の賜物をどれだけ求めても得られるものではなく、私たちが互いに仕え合おうとすることで得られるものだということです。
そのように願うなら、私たちの賜物はこの集まりの外でも、私たちが主のために影響を与えたいと願っている人たちのただ中で、より広く発揮されることになるでしょう。
そしてリュシアス、神さまはアリストブルスさんがあなたに与えようとしている自由を通して、あなたに確信を与えたいと思っているのですよ。
そうすれば、あなたはもっといろいろな形でアリストブルスさんに仕えることができるようになるし、あなたにぴったりな方法で、他の人にも仕えることができるようになるの。
だから、あなたは自信を持ってその一歩を踏み出しなさい。」
リュシアス、あなたは自信をもって一歩を踏み出しなさい
彼女はそこで言葉を留めた。
前の話し合いから想像できるだろうが、これに対するみんなの反応は、実にポジティブなものだった。
少し間を置いて、ガイウスは立ち上がり、老婦人マリアに歩み寄った。
そして、その横に立ち、彼女の頭に手を置いて、「一緒に祈りましょう」と人々に呼びかけた。
そして、この1週間で症状が改善されたことを感謝すると、この状態が完治するまで続くようにと、彼の神に癒しの力を訴えた。
ガイウスはマリアの頭に手を置いた
これをきっかけに、メンバーたちの間で、お互いの人生のさまざまな事柄について祈り合う時間が始まった。
白状すると、この時間が続くにつれて私は眠くなってきてしまった。
ラムの煙のせいもあるかもしれないが、それでも何人かの人たちは、延々と祈り続けているようだ。
クレメンスも同じように感じていたようで、スリッパをぞんざいに脱ぎ散らかすと、あきらめたようにため息をついている。
しかし最後には、「みんなが知っているお別れの歌を一緒に歌おう」とアキラが提案し、幕引きとなった。
みんなでその歌を歌うと、集会は終了した。
いや、実はそうではないのかもしれない。
というのは、この集会がいつ始まったかというクレメンスのさっきの言葉(*6)を思い出したからだ。
集会は終わった
フィロロギウスとその妻が、ホストたちにおやすみなさいを言い、子供たちを連れてすぐに出て行く。
プリスカも、それに付き添った。
二番目の家族も、もう遅いからと弁明して、別れを告げた。
どちらのグループも帰り際に私に声をかけてきて、ローマでの滞在中の祝福を祈り、そのうちの一方は、翌週の夕食にまで招待してくれた。
私がその招待を受け入れたことは言うまでもあるまい。
残った人たちは、そのままいくつかのグループに分かれて話している。
プリスカが戻ってくると、彼らにワインのおかわりを勧めた。
気づくと、アリストブルスは部屋の片隅でハーマスと話し合っている。
どうやら、ハーマスの抗議を振り切って、密かにお金を渡していたようだ。
二人の奴隷も別れを告げ、アキラは二人を広間から正門まで案内した。
プリスカは、二人の奴隷たちが立ち去ろうとするところを呼び止め、食事の残り物が詰まった二人分のナプキンを押し付けた。
彼らが去っていくのを見届けると、今度は私たち自身の別れの時だ。
私は、この集会に招き、参加させてくれたホストたちに心から感謝した。
彼らは、ローマにいる間はクレメンスとユウオディアとともにいつでも来るようにと言ってくれた。
サンダルを受け取った後、私を除く全員が互いに口づけして別れの挨拶をした。
アキラとプリスカもそうしながら、神の恵みに感謝しほめたたえた。
そして私たちは、外套を取って肩に掛けると、夜の街に出て行った。
(つづく)
Presented by RACネットワーク
【訳注】*6:第3話の一番最後のことば。集会はいつ始まるのか尋ねるプブリウスに、クレメンスは「それなら、私たちがこの家に来た瞬間から始まっているよ」と話していた。