紀元1世紀の教会を訪れる(12)

わずかにできた間を縫って、プリスカは立ち上がり、ランプに火を灯した。
もう外はすっかり暗くなり、部屋の向こうにいるお互いの姿はほとんど見えない。
そうして彼女が火を灯している間に、ハーマスはユダヤの聖なる書物から話を始めた。

目次

ハーマスによるダビデの話し

それは、過去の偉大な英雄の一人で、ダビデという人の話しだ。
その話しぶりからすると、彼らは会うたびに、彼その人物の人生の様々な場面について聞いてきたらしい。

ハーマスは、物語の語り方をとてもよくわきまえていた。
私が彼をそのように評価するのは、大人も子どもも、彼が話している間、誰ひとりとして身じろぎせず、物音ひとつ立てずに聞いていたからだ。

その話が終わると、アリストブルスの提案で、もう一曲別の歌が歌われた。

アキラは賜物の話を始めた

そして、アキラが話し始めると、皆、ふたたび腰を落ち着けた。
彼がまず話したのは、神の霊が私たちにかつてないほど多くのギフトを与えて下さるようになり、誰もが一つ以上の「賜物」を受け取るようになったということだ。
その賜物というのは、お互いに伝い合えること、あるいはお互いにやってあげられることなのだと言う。

ある者は神についての、ある者は互いについての、そしてある者は、外部の責任について、あるいは周囲で起こっている出来事について、より深い理解を与えられている。
ある者は、仲間たちが抱える問題を個人的に解決し、またある者は、仲間たちを調和と団結のある集団にまとめあげる。

経済的に困っている人を支援したり、病気などの身体的なニーズに対応する人もいる。
ある人は、自分の言葉でうまく伝えられないことや、心の奥深くにあって言葉では言い表せないことを、神に伝えたり、説明する手伝いをした。

これらはすべて、他人と共有するためのものであって、自分勝手にため込んだり、個人的に楽しむためのものではない。
そして、その場にいる一人ひとりが、そしてグループ全体が、人生のあらゆる面で成長するためのリソースを提供することができるのだ。

だから、自分にどんな能力が与えられているかを知り、それをいつ、どのように発揮すべきかを見極め、誰かが賜物を使うときに、それが真実なのか、それとも単なる個人的意見なのかを慎重に判断することが重要なのである。

最も重要な賜物

「そして何よりも…」彼は主張した。「私たちは、全てにおいて最も重要な賜物を用いることができるよう求めていく必要があります。
それは神さまのみことばを適切に、そして互いの助けになるように語り合うことであり、最も重要である真実の愛によって互いに支え合うことです。」

そして彼は、ここにいる人々みんながそれを実現できるようになるため、直接的なチャレンジによって締めくくった。

「私たちの幸福は…」彼は重々しく指し示した。「個人としても集団としても、私たちが賜物を用いるかどうかにかかっているのです。」

修辞のないことばの力

彼が話し終えた後、短い沈黙が訪れたことに、私は少しも驚かなかった。
彼の話には、人気のセンセ―たちが見せかけで語るような美辞麗句など一切なかったが、その言葉には否定しがたい力があった。
彼の言葉をすべて理解したわけではなかったにもかかわらず、私自身がそのように感じたのだ。

この沈黙の間に、フィロロギウス家の末っ子が母親の腕の中で眠ってしまい、もう一人の娘も兄弟の一人に半ば眠ったように寄りかかっていることに気がついた。

ランプの灯は揺らめく

カーテンの隙間から入り込むわずかな隙間風が、ランプを揺らし、ランプから立ち上る煙がゆったりと空中を舞っている。
壁一面に映し出された巨大な影は、光のリズムに合わせて縮んだり広がったりしている。

外では、外出禁止令(*5)が解除された市内に入る大渋滞の音が次第に大きくなってきた。
この部屋の窓は通りではなく、内側に面していたことと、壁が頑丈に作られていたことが幸いした。
さもなければ、何を言っているのか聞き取ることができなかったかもしれない。

(つづく)

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【訳注】*5:原文では「daytime curfew」という言葉が使われているが、古代ローマに日中の外出禁止令があったという資料は現時点で確認できない。ローマ帝国では、緊急時に兵士たちが街道を移動するため、市民が街道の使用を制限されることがしばしばあった。筆者がここで記している「curfew」がそれを表わしているかどうかは不明。しかし、外出禁止令が解除された直後は、それまで移動できなかった商人たちが一気に動き出すため、街道では渋滞が起こった。