使徒(しと)【用語集】

「使徒」とは、復活のキリストによって“遣わされた者”を指す語であり、 新約聖書では三つの層を持つ概念として用いられる。

固定された一つの役職名ではなく、 “キリストの復活の証人として派遣された者”という広がりを持つ語である。

使徒の働き以降の歴史の中で、使徒たちは 宣教と教会開拓 を中心的使命として担い、 1世紀末にはその役割が歴史的に姿を消していった。

1. 狭義の使徒:イエスが選んだ十二使徒(マタイ10章)

新約聖書で最も基本的な意味の「使徒」は、 イエスが地上の働きの中で直接選んだ十二人を指す。

  • イエスが名を呼んで選んだ

  • イスラエル十二部族を象徴

  • イエスの生涯と復活の“目撃者”

  • 教会の土台として特別な権威を持つ

十二使徒は、 新約時代の「使徒」の中心的グループである。

 

2. 特別な使徒:復活のキリストに召されたパウロ(使徒9章)

パウロは十二使徒ではないが、 復活のキリストに直接召された“特別な使徒”として認められた。

  • ダマスコ途上で復活のキリストに出会う

  • 異邦人への使徒として特別に任命される

  • 自ら「使徒」と名乗り、教会もそれを認めた

十二使徒とは別枠の、 復活の証人としての使徒職を担った人物である。

 

3. 広義の使徒:教会から派遣された宣教者(使徒14:14 ほか)

新約には、十二使徒とパウロ以外にも「使徒」と呼ばれる人々がいる。

例:

  • バルナバ(使徒14:14)

  • アンドロニコとユニア(ローマ16:7)

  • 兄弟たち(2コリ8:23)

これらは、 教会から正式に派遣された宣教者・働き人 という広い意味での「使徒」である。

彼らはクリスチャンがいない地域に行き、福音を宣べ伝え、ある程度の人たちの霊的成長を見届けると、次の町へと移動していった。

歴史的には、この働きは直接の使徒たちから次の世代くらいまで続いたが、徐々に歴史から姿を消していった。

使徒=“遣わされた者”という語の本質が、広義の用法に表れている。

 

4. 使徒の働き以降の使徒たちの使命:宣教と教会開拓

使徒の働き以降、使徒たちの働きは明確に 宣教と教会開拓 に集中していく。

  • 新しい地域へ福音を携えて行く

  • 家々や都市で新しい教会を生み出す

  • その教会を整え、長老を任命する

  • 手紙によって教会を導き、教理を守る

  • 迫害の中で福音を前進させる

特にパウロは、 宣教者・教会開拓者としての使徒職の典型となった。

使徒たちは、 単なる指導者ではなく、 新しい地にキリストの共同体を生み出す者たちだった。

 

5. 使徒職の歴史的終焉:1世紀末に姿を消す

使徒職は、 新約時代の特別な役割として 1世紀の間に歴史的に姿を消していく。

理由は以下の通り:

  • 復活のキリストの直接の証人がいなくなる

  • 新しい教会がすでに各地に根づき、指導体制が整う

  • 使徒の権威が文書(新約聖書)として残される

  • 教会が制度化され、監督・長老・奉仕者の体制へ移行する

1世紀末には、 使徒職は「復活の証人として遣わされた者」という本来の意味を果たし終え、 歴史的役割を終える。

 

6. 使徒職の消失と教会の変質:異教文化の取り込み

使徒職が終わった後、 教会は次第に 異教文化・哲学・政治構造 を取り込み始める。

  • ギリシャ哲学的思考の導入

  • ローマ帝国の行政構造の影響

  • 儀式・祭儀の形式化

  • 聖職者階級の固定化

  • 建物中心の宗教構造への移行

その結果、 初代教会のシンプルで有機的な姿から離れ、 本来の姿とは異なる形へと変質していった。

これは歴史的事実として広く認められている流れである。

 

7. 使徒職は“権威”ではなく“使命”である

新約聖書は、使徒職を “上に立つ権力”としてではなく、 福音を携えて仕える使命として描く。

  • 支配ではなく、奉仕

  • 権力ではなく、証し

  • 地位ではなく、派遣

使徒は、 キリストの働きを地上で継続するために遣わされた者である。

※ 近年みられる新使徒運動(New Apostolic Reformation, NAR)で表現されている使徒は初代教会時代の使徒とは異なり、権威主義に則ったもの。

聖書より指導者の言葉を重視する傾向もあり、初代教会の歴史理解との矛盾などに注意が必要である。

 

まとめ

使徒とは、復活のキリストによって遣わされた者を指す語であり、 狭義には十二使徒、特別な使徒としてパウロ、 広義には教会から派遣された宣教者を含む。 固定された役職名ではなく、 “復活の証人として派遣された者”という使命を表す概念である。