士師記12章 内なる争い ── 兄弟同士の対立(12:1-15)
士師記12章は、エフタによるアンモン人への勝利の後に起こった出来事を描いています。
11章では、神がエフタを用いてイスラエルを救われました。
外敵であったアンモン人は打ち破られ、神の救いが与えられます。
ところが12章では、敵との戦いではなく、同じイスラエル人同士の争いが起こります。
士師記が進むにつれて、問題は外側の敵から内側の崩壊へと移っていきます。
この章の中心は、神の民にとって真の危機は外敵だけでなく、内側に生まれる高慢や分裂にもあるということです。
背景
エフタは神の助けによってアンモン人を打ち破りました。
しかし勝利の喜びも束の間、今度はエフライム族がエフタに不満をぶつけます。
この出来事は士師記8章でエフライム族がギデオンに不満を述べた場面を思い起こさせます。
ただし今回は、ギデオンの時とは全く違う結末を迎えることになります。
エフライム族との衝突(12:1-6)
エフライム族はエフタのもとへ来て言います。
「なぜ私たちを呼ばないでアンモン人と戦ったのか。」
そして、「おまえの家を焼き払う。」とまで脅します。
彼らは戦いに参加できなかったことではなく、自分たちが中心に立てなかったことに怒っていたようです。
エフタは弁明します。
「私は呼んだが、あなたがたは助けてくれなかった。」
そして神の助けによって戦ったことを説明します。
しかしエフライム族は耳を貸しませんでした。
ついに戦いが始まり、ギルアデ人はエフライム人を打ち破ります。
ここには、同じ神の民が互いに争う悲しい姿があります。
「シボレテ」の出来事(12:5-6)
この戦いで最も有名なのが、「シボレテ」の場面です。
ギルアデ人はヨルダン川の渡し場を押さえ、逃げてくる者に「シボレテと言ってみよ」と命じました。
しかしエフライム人は方言の違いから、「シボレテ」を正しく発音できず、「スィボレテ」と言ってしまいます。
そのため敵味方が判別され、多くのエフライム人が命を落としました。
言葉一つが生死を分ける結果となったのです。
この出来事は、イスラエルの内部分裂がどれほど深刻であったかを物語っています。
エフタの死(12:7)
エフタは六年間イスラエルをさばきました。
その後、彼は死に、ギルアデの町に葬られます。
エフタは信仰を持った人物でした。
ヘブル11章にも名前が記されています。
しかし同時に、
- 軽率な誓願
- エフライムとの内戦
など、多くの問題も抱えていました。
士師記の士師たちは次第に複雑な人物として描かれるようになります。
それはイスラエル全体の霊的状態が悪化していることを反映しているのです。
三人の小士師(12:8-15)
エフタの後には三人の士師が続きます。
① イブツァン(12:8-10)
ベツレヘム出身の士師です。
三十人の息子と三十人の娘を持ち、八年間イスラエルをさばきました。
② エロン(12:11-12)
ゼブルン族出身で、十年間イスラエルをさばきました。
③ アブドン(12:13-15)
四十人の息子と三十人の孫を持ち、八年間イスラエルをさばきました。
これらの記録は短いものですが、神が各時代に士師を立ててイスラエルを導いておられたことを示しています。
この箇所が私たちに語ること
士師記12章は、内なる争いの危険を教えています。
アンモン人との戦いには勝利しました。
しかしその直後に兄弟同士の戦いが起こりました。
神の民にとって最大の脅威は、時に外側からではなく内側からやって来るのです。
また、この章は高慢の危険を教えています。
エフライム族は自分たちの立場や名誉にこだわりました。
その結果、本来なら共に神を喜ぶべき時に争いを生み出してしまいました。
高慢は共同体を破壊する力を持っています。
さらに、この章は平和を守る知恵の大切さを考えさせます。
ギデオンは柔らかい言葉によってエフライムの怒りを静めました(士師記8章)。
しかし今回は激しい対立へと発展しました。
神の民は真理だけでなく、互いの関係を守る知恵も必要なのです。
この箇所の中心メッセージ
エフタはアンモン人との戦いには勝利したが、その後エフライム族との深刻な対立が起こった。
外敵に勝利しても、内側の高慢や分裂が共同体を傷つける危険がある。
神の民は互いに争うのではなく、へりくだりと愛をもって一致を保つよう招かれているのである。
「シボレテと言ってみよ。」(士師記12:6)

