第二サムエル記 14章 アブシャロム帰還:和解なき関係(14:1–33)
1. ヨアブの策略:テコアの女を用いた説得(14:1–20)
① ヨアブの観察
- ヨアブはダビデの心がアブシャロムに向いていることを知る
- ダビデはアブシャロムを恋しく思っている
- しかし自ら和解へ踏み出そうとしない
ヨアブは、王の心と現実の間に溝があることを見抜いていた。
② テコアの女の登場
- ヨアブは知恵ある女を呼ぶ
- 喪に服する女性を演じさせる
- 王の前で一つの訴えを語らせる
③ 二人の息子のたとえ
- 兄弟が争い、一人が一人を殺した
- 残された息子まで失えば家系が絶える
- 母親として助けてほしいと願う
④ ダビデの判断
- 息子を守ることを約束する
- 憐れみに基づく裁きを下す
そこで女はダビデに問いかける。
「なぜ王は神の民に対して同じことをしないのですか」
⑤ ヨアブの意図の発覚
- ダビデは背後にヨアブがいることを見抜く
- 女もそれを認める
- ヨアブの目的はアブシャロム帰還だった
補足:
ナタンがたとえ話でダビデに罪を悟らせたように、ここでもたとえ話が用いられている。
しかし今回は悔い改めではなく、父としての決断を促すために使われている。
2. アブシャロムの帰還:赦しではなく放置(14:21–24)
① ヨアブへの許可
- ダビデはヨアブの願いを受け入れる
- アブシャロムの帰還を許可する
- ゲシュルから呼び戻される
② 中途半端な赦し
- エルサレムには戻れる
- しかし王には会えない
- 王の顔を見ることは許されない
③ 真の和解の欠如
- 罪の問題は扱われていない
- アムノン殺害についての対話もない
- 関係だけが宙ぶらりんの状態になる
補足:
ダビデはアブシャロムを罰せず、かといって赦してもいない。
この曖昧さが後の反乱の温床となっていく。
3. アブシャロムの魅力:民を惹きつける人物(14:25–27)
① 卓越した容姿
- 全イスラエルで最も美しい男と評判
- 足の裏から頭の頂まで欠点がない
- 民衆の注目を集める存在
② 豊かな髪
- 毎年髪を切るほど重く伸びる
- 重さが強調される
- アブシャロムの象徴的特徴
③ 家族
- 三人の息子
- 一人の娘タマル
- 妹タマルにちなんだ名を与える
補足:
サウルもまた外見に優れていた。
著者は再び「外見の魅力」と「内面の問題」を対比しようとしている。
4. 二年間の沈黙:深まる父子の溝(14:28–32)
① 長い待機
- アブシャロムは二年間エルサレムに住む
- 王に会うことが許されない
- 不完全な状態が続く
② ヨアブを呼ぶ
- アブシャロムはヨアブを呼ぶ
- ヨアブは応じない
- 二度呼んでも来ない
③ 畑への放火
- ヨアブの畑を燃やさせる
- 強引に関心を引き寄せる
- 後の反乱を予感させる行動
④ アブシャロムの訴え
- 「なぜ帰らせたのですか」
- 「王に会えないなら意味がない」
- 「罪があるなら殺してください」
アブシャロムは曖昧な状態を拒否する。
補足:
アブシャロムは問題児として描かれるが、この訴えには一理ある。
放置された関係は、人の心に苦味を生み出してしまう。
5. 表面的な和解:問題は解決していない(14:33)
① 王との再会
- ヨアブが仲介する
- アブシャロムは王の前に出る
- 地にひれ伏す
② 王の口づけ
- ダビデはアブシャロムに口づけする
- 父子関係が回復したように見える
- 表面的には和解が成立する
③ 残された問題
- アムノン殺害の問題
- タマルの傷
- 王家の責任
どれも解決されていない。
補足:
14章の終わりは幸福な結末ではない。
和解のように見えるが、実際には傷が癒えておらず、問題は心の奥に残ったままである。
まとめ
- ヨアブはテコアの女を用いてダビデにアブシャロム帰還を認めさせた。
- アブシャロムはエルサレムへ戻るが、王との関係は回復しなかった。
- 二年間にわたって父子は断絶したまま過ごした。
- アブシャロムは強引な方法でヨアブを動かし、王との再会を実現した。
- ダビデはアブシャロムに口づけし、表面的には和解した。
- しかしアムノン事件によって生じた傷と罪の問題は解決されていなかった。
- この章は、「赦しのない放置は真の和解を生まず、未解決の傷はやがて大きな対立を生み出す」という神学的教訓を示している。

