第一コリント 9章 福音のために権利を用いない生き方(9:1-27)
背景
① 8章から続く「自由」の問題
8章では、
- 偶像に献げた肉
- 信徒の自由
- 愛による配慮
について語られた。
9章ではパウロ自身を実例として、「権利を持ちながらも、その権利を用いない生き方」を説明する。
② 使徒職への疑問
コリント教会の中には、
- パウロは本当に使徒なのか
- 他の使徒と同じ権利があるのか
と疑う者たちがいた。
そこでパウロは、自分の使徒職を弁護しながらも、その権利を放棄してきたことを語る。
③ 福音を妨げないため
当時、多くの哲学者や宗教家は報酬を受けて活動していた。
パウロには生活の支援を受ける権利があったが、コリントではあえてそれを用いなかった。
それは福音が金銭目的と誤解されないためである。
④ 本章の中心テーマ
この章の主題は、「自分の権利より福音を優先する」ことである。
8章では「弱い兄弟のために自由を制限する愛」が語られたが、9章では「福音のために権利を放棄する愛」が語られている。
1. パウロの使徒としての権利(9:1-14)
① パウロは使徒である
パウロは問いかける。
「私は使徒ではありませんか。」
その根拠として、
- 復活の主を見たこと
- コリント教会の誕生
を挙げる。
② コリント教会そのものが証拠
彼ら自身が、
パウロの使徒職の証印であった。
彼が福音を伝えた結果として教会が生まれたからである。
③ 使徒の権利
パウロは使徒として、
- 食べる権利
- 飲む権利
- 妻を伴う権利
- 生活の支援を受ける権利
を持っていた。
④ 聖書による根拠
旧約聖書にも、働く者が報酬を受ける原則が示されている。
「穀物をこなしている牛に口籠をはめてはならない。」
という律法を引用する。
⑤ 福音に仕える者への支援
神殿で仕える祭司たちが祭壇から生活したように、福音に仕える者も福音によって生活することが認められている。
パウロは牧会者や宣教者への支援を否定しているのではない。
むしろそれを正当な権利として認めている。
2. 権利を放棄するパウロ(9:15-18)
① 権利を行使しなかった
しかしパウロは、その権利を用いなかった。
② 福音を誇りとしていた
彼の喜びは、報酬ではなく福音そのものであった。
③ 福音を宣べ伝える責務
パウロは、
「もし福音を宣べ伝えなければ、私はわざわいです。」
と語る。
それは神から与えられた召しだった。
④ 無償で伝える喜び
彼は福音を無償で伝えることを選んだ。
それによって福音の妨げを取り除こうとしたのである。
⑤ 召しへの忠実さ
パウロの原動力は、利益ではなく使命であった。
パウロは権利を軽視しているのではなく、より大きな目的のために自発的に放棄しているのである。
3. すべての人を得るために(9:19-23)
① 自由でありながら仕える者
パウロは、誰にも縛られていない自由な者であった。
しかし、「より多くの人を得るため」自ら進んで仕える者となった。
② ユダヤ人にはユダヤ人のように
福音を伝えるため、相手に合わせた接し方をした。
③ 律法の下にある者へ
律法の下にある人には、その文化や背景を理解しながら接した。
④ 弱い人には弱い人のように
弱い人々の立場に立ち、その人々を理解しようと努めた。
⑤ 福音のための柔軟性
パウロは真理を妥協したのではない。
むしろ、変わらない福音を伝えるために、接し方を柔軟にしたのである。
⑥ 福音にあずかるため
彼のすべての行動の目的は、「福音のため」であった。
宣教の本質は文化を押し付けることではない。
変わらない福音を、それぞれの人が理解できる形で伝えることである。
4. 勝利を目指して走る競技者(9:24-27)
① 競技場のたとえ
コリントでは競技会がよく知られていた。
パウロはそこから例を取る。
② 走る者の姿勢
競走者は、
- 目標を見失わない
- 勝利を目指す
- 全力を尽くす
のである。
③ 自制する競技者
競技者は冠を得るために厳しい訓練を受ける。
しかしその冠はやがて朽ちる。
④ 朽ちない冠
信徒が目指すのは、永遠に価値のある報いである。
⑤ 自己訓練
パウロは、自分自身を厳しく訓練すると語る。
それは救いを得るためではなく、与えられた使命に忠実であるためである。
⑥ 失格への警戒
他人に福音を伝えながら、自らが不忠実にならないよう警戒していた。
これは救いの喪失の話ではなく、奉仕者としての忠実さと自己管理について語られている箇所である。
神学的意味
① キリスト者の権利は絶対ではない
- 権利は与えられている
- しかし愛が優先される
- 福音のために用いるべきである
② 福音は人生の最優先事項である
- 利益よりも
- 評価よりも
- 自己実現よりも
福音が重要である。
③ 真の自由は仕える自由である
- 自己中心ではなく
- 他者を生かし
- 神に仕える
自由である。
④ 宣教には柔軟さが必要である
- 真理は変えない
- 方法は柔軟にする
- 人々を得ることを目指す
のである。
⑤ 信仰生活には自制が必要である
- 目標を持ち
- 忍耐し
- 主に忠実に歩む
ことが求められる。
⑥ 奉仕は報酬ではなく召しによる
- 神の恵みから始まり
- 神の使命として与えられ
- 神の栄光のために行われる
のである。
⑦ キリストとの関係
キリストは、
- 福音の中心
- 仕える者の模範
- ご自身の権利を捨てられた主
- 多くの人を救うためにご自身を与えられた救い主
である。
パウロはキリストにならい、自らの権利ではなく福音の前進を選んだのである。
まとめ
- 第一コリント9章は福音のために権利を放棄する生き方を教える章である。
- パウロには使徒としての正当な権利があった。
- しかし福音を妨げないためにその権利を用いなかった。
- 福音は彼にとって召しであり喜びであった。
- 彼はすべての人を得るために柔軟に仕えた。
- 真理は変えずに方法を変えた。
- 信仰者は競技者のように自制して歩むべきである。
- 朽ちる冠ではなく永遠の報いを目指すべきである。
- 真の自由とは他者に仕える自由である。
「キリスト者は自分の権利を第一にするのではなく、福音の前進と人々の救いのために進んで自己を献げ、キリストの模範にならって忠実に走り続けるべきである」

